他カテゴリ記事を絞り込んで探す
【一葉的バイクの小窓】vol.2 バイクはできないことへのチャレンジ
- おすすめコラム
- 2016.10.28
花業界のライター「中村一葉」が語る女性ライダー目線のコラムです。
洞爺湖にて
-
バイクはできないことへのチャレンジ
そもそも、なんでバイクの免許を取ったのかというと、それは病気克服の願掛けだった。
それまで数年間に渡り入退院を繰り返していたため、
私にとって『できないことができるようになる』イコール『治らないものが治る』ような気がしたから。
“できないこと”で真っ先に頭に浮かんだのが、バイクの運転だった。
20年程前、知人のスクーター(ラッタッタではないタイプ)を借りて、私道で運転したときのこと。
グラグラふらついて、まっすぐに走ることができなかった。5メートルの短距離走行さえも危なっかしい。
兎にも角にも走って止まることが怖いのだ。
その場に居合わせた仲間は、困ったように笑いながら、
絶対に乗らないほうがいいと口を揃えた。
「うん。そうするよ」
バイクに乗るということを封印した。
ならば今回封印を解いて、バイクに乗ってみようじゃないか。
出来ない事へのチャレンジがはじまった。
-
誰にも言わず教習所へ
二年前、誰にも言わず教習所に申し込みに行った。
教習所では、申込書を書く前に倒れたバイクを引き起こすテストがあった。
そんなことがあるとは知らず、その日は5センチヒールのパンプスを履いていたため、
教習所で靴を借りた。
目の前で横たわるワイン色のCB400。
起こせることができなければ入所することができないと言われ、
息を止めてふんばった。
どのようにして起こしたのか覚えていないが無事合格。
晴れて教習所通いが始まった。
教習所に数回通った頃、二輪免許にチャレンジしたことに後悔した。
予想以上に難しかった。コース内で転倒ばかり。
何度も何度も同じ失敗を繰り返し、気分が萎えた。
しかも、病気は完治目前なのに再検査ばかり。
はぁ…。
落ち込んでいる最中、熊野古道へ行く機会があった。
ここまできたのだから、と熊野本宮大社まで足を伸ばした。
入り口には大きく、漢字一文字『挑』が掲げられていた。
新たなる自分自身の出発(たびだち)を
熊野(ここ)で祈りて光輝くとも書かれていた。
「よし、がんばるぞ!」
-
普通二輪から大型二輪、そして・・
教習所は憂鬱だったが、どんなバイクに乗ろうか考えるのは、とても楽しかった。
ディーラーから持ち帰ったカタログを見ながら、あーでもないこーでももないと迷う。
こういう時が一番楽しかったりする。
で、ヤマハのセロー
林道など走れたら気持ちよさそうだ。
しかし、教習所に通っているうちに欲が出た。いつもの癖だ。
大型が欲しくなってしまったのだ。
なんせ、いつか大型に限定解除したくなったとしても、
また教習所に通うなんてごめんだ。もう、コリゴリ。
そんな訳で、府中試験場で普通二輪免許の手続きを終えると、
すぐに教習所に戻り大型二輪の教習を申し込んだ。
教習所には、二輪教習者用のプレハブ小屋があってその壁には、試験のコースがあり、
バイクショップ広告ポスターがいくつか掲示されていた。
ポスターの内容は、正直あまり記憶にない。
ただ、カワサキのバイクを販売しているお店のポスターは、下の方に社長の顔写真があって
「バイク好きのオジサンです」と書かれいていたことだけは覚えている。
「へ~、気さくな感じ」
なんとなく親しみがわいた。
教習所も終盤になると、セロー250への気持ちはすっかり薄れ、
600~800CCクラスのフルカウルタイプに乗りたいと思うようになっていた。
だって、かっこいいんだもん。
購入候補を二つに絞った。
卒検目前、バイクショップへ行ってみることにした。
バイクショップに入るのは、とにかく身構えてしまう。
男性が、“花屋に入りにくい”というのと同じ心境なのだろうか。
まず、近くのバイクショップへ。
欲しいモデルは店内になかった。希望しているバイクを伝えた。
すると、「シート高が高くフルカウルだと余計に足つきが悪くなるので、
私にはおすすめしない」と言われた。意気消沈して店を後にした。
私には無理なのか…。
教習所にあったポスターのお店ならどうだろう・・。
バイク好きのオジサンは相談に乗ってくれそうだ。
教習所の帰りに車で立ち寄ってみた。
おそるおそる店内に足を踏み入れると、
教習所のポスターで見たバイク好きのオジサンが「こんにちは~」と明るく声をかけてくれた。
まだ二輪免許取得前で教習所に通っている最中であること、人生はじめてのバイクだということ、
足つきが心配であることを伝えたうえで、
おすすめしないと言われるのではないかとハラハラした。
「大丈夫だよ。いいと思いますよ」
そして、何やら連絡していた。
「今、ちょうど修理に来ているのがあるから、またいでみなよ」
と社長。
その日の、作業場にあったのは白いNinjya650。
社長は、持ち主に連絡して許可を得てくれたのだった。
持ち主は女性で、身長は私(157㎝)と同じくらいらしい。3㎝程ローダウンしているという。
Ninjya650のシートの高さは805mmなので、だいたい775mmくらいだろうか。
恐る恐るまたいでみた。
親指の付け根から先が地面に着く程度。
バレリーナ状態ではあるが、恐怖感はなかった。
「あ、大丈夫みたいです」
もちろん即決。
この日から、バイク好きのオジサンのいる、カワサキフリーダムナナ本店さんとの付き合いがはじまった。
(文・写真)中村一葉(なかむらいちよ)
(協力)株式会社カワサキフリーダムナナ本店
東京都八王子市長沼町203-5 042-637-8197